『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』

『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』

どこの世界にも「頭の良い人」というのがいる。

学歴が高いとか専門知識があるとかではなく、本質を見抜き、さっと最短距離で物事を達成する人。そうした人は、たとえ自分の知らない業界や領域で問題に直面しても、単純なほど本質的に分解し、瞬時に判断をくだし、圧倒的な成功を収めていたりする。

著者は、そうした人たちを見て「なぜ彼らはそんなに効率的に仕事ができるのだろう?」と思っていたという。だが実は、彼らは決して「効率的」なのではなく「本質を考え抜き、たった一つのことを行うことで、結果的に効率性をもたらしていた」のだと気づく。では、どうしたらそれができるのか?

第1章・第2章では、そのために「考えること」の必要性、そしてその具体的な方法論が書かれている。

具体的には、思考力を鍛えるためには「考える」「書く」「話す」の3つのサイクルを確立することだという。それは、たとえばロジックツリーやMECEといった、いわゆるロジカルシンキングで使われるフレームワークが含まれている。だが、そうしたフレームワークを使うことそのものが目的ではなく、一見関係ないような事象を構造化し抽象化するため、さらにいえば、その思考の箱を飛び出して、前提を疑うための方法論の中で書かれているので、圧倒的な説得力がある。

ここまでが第2章なのだが、この著者ならではの白眉の内容は、第3章ではないかと思う。

この章では、「2020年から先の世界を生き抜く方法を考える」と題して、アフターオリンピックの世界を俯瞰する。

「まず、社会に個人の人生を当てはめてきた時代が終わりを迎える」と著者は書く。私たちはいま、どのような歴史的変化に立ち会っているのか。その中で、お金・社会・仕事・個人がどう変化していくか。そして、具体的にどう生きていけばいいのか。

20世紀型の金融経済から、信用主義経済へと、巨大なパラダイムシフトが起こる。ブロックチェーンによって「超記帳主義社会」が到来し、その社会が記帳ブロックのクラッシュによって終焉すると、信用主義の時代が訪れると筆者は言う。

キャッシュレス化も遅々として進まない日本でこの話を読んでいると、遠い話にも思えるが、2018年にアリババが中国でオープンした、顔認証ですべての決済ができる「FlyZoo Hotel」などは、超記帳主義社会が目の前に迫っていることをいやでも思い知らせる。その人の信用も取引もすべてがデータとして記帳され、そのデータ自体が価値となっていく社会の到来。

ソサエティ(社会)からコミュニティ(共同体)にシフトし、単一社会は溶け、コミュニティが乱立すると著者は予測する。やってくるのは、オペレーションではなくイノベーション、ヒエラルキーではなくハブが力を持つ時代だと。

その巨視的な「2020年から先の世界」は、新しい資本主義を考える上でも、人生100年時代のキャリアの指南書としても非常に興味深いが、その未来予測そのものが、第1章・第2章で書かれた「考える力」によって、現在に立ち、過去の事象をつなぎ合わせながら、抽象化と具体化を繰り返し、紡ぎ出された「ストーリー」なのだとわかる。

たとえば「理系・文系」を分化することの是非が議論されているが、この本を読むと、そもそもそうした議論そのものがあまり意味がなく、学び続けること、抽象化し本質を見出すこと、さらに一段高い視点に立って(メタ思考)、事象を捉えなおすことが「考える」ことの本質だと気づかされる。