会社に勤めながら旅するように働く 「クリエイティブ疎開」というワークスタイル

会社に勤めながら旅するように働く 「クリエイティブ疎開」というワークスタイル

大手IT企業に勤務しながら「クリエイティブ疎開」を実践する山本裕介さん。さまざまな地域で旅するように働き、人と出会い、新たな視点やインプットを得る。3年間でリモートワークした場所は11箇所。なぜ「クリエイティブ疎開」を続けるのか。その魅力と成功の条件を聞く。

旅しながら地域で働く「クリエイティブ疎開」とは?

最初に「クリエイティブ疎開」、いわゆるリモートワークに行ったのは北海道・知床です。それがめちゃくちゃ楽しかったんですね。

「知床で働いてみませんか?」という広告をインターネットでたまたま見て、知床は一度行ってみたいと思っていましたから、そこで働くってどんなことなんだろうって興味が湧いて。斜里町が推進する「ふるさとテレワーク事業」の一環で往復交通費・宿泊費がサポートされることがわかり、とりあえず申し込んでみたんです。

もともと勤務先は、きちんと仕事さえしていればどこで働いてもよいという方針ですから、同僚を誘って5日間滞在しました。

しれとこらぼ」というワーキングスペースを併設した施設に泊まって仕事したのですが、窓の外からはこんな朝焼けが見えます。

ワーキングスペース兼住居からの風景

オフィスにはWifiやテレビ会議ツールがあり、東京のチームともスムーズにテレビ会議できました。

世界遺産の知床半島を見ながら仕事しています。

遊覧船で知床の絶景を前に。電波が通じればどこでもオフィスに

名水で打ったお蕎麦を食べたり、カムイワッカの滝の湯という温泉につかったり。

「しれとこらぼ」には地元の人たちがふらっと訪ねてくるので、いろんな人と知り合えました。「ここ行った?」「連れて行ってあげるよ」と案内してくれる人もいて。鮭が川いっぱいに遡上しているのも初めて見ました。別の日には、ご自身も漁師である町長が漁港に連れて行ってくれて、オホーツク海での鮭漁を見ることもできました

地域の課題がいきなり「自分ごと」になる

この3年間、11箇所で「クリエイティブ疎開」しました。

交通費や宿泊費は自腹になりますが、払ってもいいだけの価値があると思います。知床のように補助も出している自治体もあります。

リフレッシュして仕事できるのはもちろん、地元の人たちと仕事しながら、世界が広がっていくのが大きな価値ですね。

首都圏から来たほかの会社の人たちとの出会いも多くて、リモートワークで出会った人と仕事につながったことも一度ならずあります。一緒に過ごした時間は短くても、同じ経験をしたり、リモートワークで行った先の共通の知り合いがたくさんいるから、都内で会ってもすごく盛り上がる。共通の「バーチャル地元」を持つ感じです。これもすごく大きな価値だと思っています。

観光旅行だと、きれいな景色を見て、アクティビティして、おいしいご飯を食べる、という感じで「消費」しておしまいですが、リモートワークの場合は仕事、つまり何かしらの「生産」モードで行くので、地元の人たちがいろいろな課題を相談してくれるんです。一緒にディスカッションして、自分のビジネスとつなげて考える。訪れた地域の課題や可能性が、いきなり自分ごと化になるのが面白いし、世界が広がっていきます。

リモートワークを成功させるための条件とは?

そうはいっても、リモートワークって大変だったり、行ってみて「こんなはずじゃなかった」と思うこともあります。成功させるためには、働く側の期待値設定が大事だと思います。

リモートワークって、大きく分けて3パターンあると思うんです。

  1. 合宿型業務集中リモートワーク(出力量: 12)
  2. 普段と同じ稼働量リモートワーク(出力量: 10)
  3. 業務抑え目リモートワーク(出力量: 3〜4)

合宿型業務集中リモートワークというのは、開発合宿みたいに、オフサイトで朝から晩まで仕事することで、仕事の出力量を高めるもの。業務抑え目リモートワークは、ワーケーション(ワーク+バケーションを組み合わせた造語)に近いかもしれません。仕事がストップしないように最低限のメールの返信や電話会議はしながら、訪問先でしかできない出会いや体験を楽しむもの。

普段と同じ稼働量リモートワークは、実は結構しんどいんじゃないかと思っています。交通費をかけて出かけて、朝から晩まで仕事して「あれ? PCの画面しか見てないな」「東京にいるのと何が違うんだろう」となってしまう。地元の人が誘ってくれても「これからテレビ会議なんで」と断って、だんだん誘われなくなってしまう。

だから僕はリモートワークする時、あまりギチギチに予定を詰め込みすぎないようにしています。地元の人と打合せしたりして、メールをすぐに返信できない時間帯は、あらかじめカレンダーに入力しておいて、東京のチームメンバーとも予定を共有しておく。リモートワークならではのアウトプットを設定する。この期待値設定がきちんとできていれば、メリハリも効いて、効率は上がると思います。

いくつか課題もあります。

ひとつめは滞在先の情報量。

何日間か滞在するわけですから、どんな移動手段があって、生活環境はどうなのか、事前に知っておきたい情報はたくさんあります。けれども、意外とそうした情報がないんですよね。行く前にそういった情報を現地の人に聞いても「全部こちらで面倒見るから任せておけ」としか言われなくて、実際に何から何まで面倒を見てくれたんですが、行く前はそれがわからないから、不安だったりする。旅行代理店に聞いても、コーワーキングスペースの情報なんかはわかりませんしね。

ふたつめは交通費。これは大きいですね。

どうしてもモビリティの阻害要因になりますから、地域でのリモートワークを増やしていくために、何らかの措置があればいいんですが、現状はどうしてもネックになっています。

それから「誰に言えばいいの?」問題。

すでにリモートワーク制度が確立されている会社ならいいですが、そうでない場合、そもそもどの部門に申請していいかわからない。出張でもなければ休暇でもない。育児や介護で在宅勤務するのとも違う。現地で商用があるわけでもなく、ただ遠隔地に行って仕事したいんですという申請を誰にすればいいのか。他社の友人をリモートワークによく誘いますが、この問題がネックでこられない人も多いです。

対自治体の窓口という意味でも同じで、何か相談しようと思っても、移住促進課の管轄でもないし、一体どこなんだ? と。旅行代理店でそういうパッケージもありませんしね。

移住まではいかないけど、もしかしたら移住になるかもしれない。旅行じゃないけど、出張でも引っ越しでもない。リモートワークというものが、まだ中間領域にあるということなんでしょうね。

旅行とも定住とも違う「地域との関わり方」

アドレスホッパーといわれるように住まいや働く拠点を転々としている人や、多拠点居住をする人も増えていますが、普通に会社に勤める家族のいる人たちが、いろんな場所に出かけて地域でリモートで働くこと、つまり「ローカルリモートワーク」があたりまえになればいいと思っています。

猛暑続きの中、小学校にエアコンをつけるつけないという議論がありますが、エアコン設置を予算化して、議会で承認して業者手配して取付工事して、とやっている間に夏が終わりますよね。だったら無理して行かなくても、エアコンのある自宅から、テレビ会議やタブレットで授業を受ければいい。そもそも東京などの都心にいる意味があるのか? と。

もちろん顔を合わせることも大事ですが、スマホ一台で仕事したり、遠隔でチャットできる時代、テクノロジーの恩恵をもっと享受すればいいと思うんです。そう考えると、ずっと東京にいて、オフィスに通う意味ってなんだろうなと。

子供連れでリモートワークに行くこともありますが、すごく歓迎してもらえます。僕は広島出身ですが、両親は他界しているので、帰省するふるさとというのはもうないんです。子供たちに第二の故郷をたくさんつくってあげたいという気持もありますね。給食や食材の産地を見れば「ここ行ったことあるね」という会話になりますし、台風がくれば「奄美大島で会ったあの人、大丈夫かな」と家族で会話したり。地域のことを考える時、いろんな人の顔を思い浮かべるようになりました。ふるさと納税も、働いたことのある地域にしたくなります。

人口が減少していますから、どの自治体も移住誘致を推進しています。ただ自治体の人ともよく話しますが、定住型移住を増やすには、予算も手間もすごくかかるんですよね。その結果、移住してくれたとしても、どれくらい税収が増えるかといえば、かけた予算の割には微々たるものだったりする。

だったら定住はしないけれども、定期的にリモートワークしにくる人を増やして、その地域のファンになってもらう方が、現実味があると思います。いきなり定住してくれというのって、付き合ってもいないのに結婚してくれというようなものですよね。でも何度か訪れて、旅行以上定住以下のスタイルで、働きながら生活することで、いろんなことが見えてくるし、顔の見える関係ができていく。

そういう地域が全国にたくさんできればいいし、気に入った場所があったら、移住すればいい。そんなことがあたりまえになればいいと思っています。